産後に手首が痛くなりやすい3つの背景

産後の手首の痛みは、「体力が落ちたから」「年齢のせい」と受け止められがちですが、実際にはこの時期ならではの事情が重なって起こりやすいと言われています。

① ホルモンの変化がかかわっている

妊娠中から産後にかけては、女性ホルモンのバランスが大きく変わります。特に授乳期に多く分泌されるプロラクチンや、産後に減っていくエストロゲンは、腱(けん)とそれを包む腱鞘(けんしょう)のなめらかな動きにかかわっていると言われています。同じ動作をしていても、産後は手首まわりに負担がたまりやすい時期にあたります。

② 抱っこの回数と、手首の使い方

新生児期は1日に10回以上抱き上げることも珍しくありません。そのとき、親指を大きく開いて赤ちゃんの頭を支える形になりやすく、この姿勢は手首の親指側にある腱に負担が集まりやすいと言われています。まだ首がすわらない時期ほど、慎重に支えようとして力が入ります。

③ 休ませたくても、休ませられない

手首の痛みがやっかいなのは、使わずに休ませることが現実的に難しい点です。授乳、おむつ替え、沐浴、抱っこ。どれも手首を使わずには進みません。「痛いけれど、やるしかない」という状況が続くことで、回復に時間がかかりやすくなります。

「腱鞘炎かな」と思ったときに見ておきたいサイン

産後の手首の痛みは、ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)と呼ばれる状態がかかわっていることがあると言われています。親指側の手首に起こりやすいのが特徴です。次のようなサインが続いていないか、一度確かめてみてください。

  • 手首の親指側(出っ張った骨のあたり)が痛む
  • 赤ちゃんを抱き上げる瞬間に、鋭い痛みが走る
  • 親指を内側に握り込んで、手首を小指側へ倒すと痛みが強くなる
  • ペットボトルのふた、ドアノブ、包丁など、ひねる動作がつらい
  • 手首の親指側に、腫れぼったさや熱っぽさを感じる

ただし、手首の痛みの背景は一つではありません。首や肩からの影響、関節そのものの状態など、いくつもの可能性があります。ご自身で判断せず、まずは整形外科で診ていただくことをおすすめします

※ ここでご紹介したサインは、状態を知るための一般的な目安です。症状を診断するものでも、医療行為に代わるものでもありません。痛みが強い、腫れや熱感がある、しびれをともなう、日に日に悪くなっているというときは、まず整形外科などの医療機関にご相談ください。授乳中に使えるお薬についても、医師・薬剤師にご確認いただくと安心です。

手首に負担をかけにくい、抱っこと授乳の工夫

抱っこの回数を減らすことはできません。でも、同じ抱っこでも、支え方を変えるだけで手首にかかる負担は変わります。今日から試していただけるものを3つご紹介します。

1. 手首ではなく「前腕」で乗せるように支える

手のひらだけで支えようとすると、手首に体重が集中します。赤ちゃんの体をひじから手首までの前腕全体に乗せるイメージにすると、支える面積が広がり、手首一点への負担がやわらぎやすくなります。抱き上げる瞬間だけでも意識してみてください。

2. 親指を大きく開かない

親指を大きく開いて「C」の形で頭を支える持ち方は、親指側の腱がいちばん引っぱられる形です。指をそろえて手のひら全体で支えるようにすると、親指まわりへの負担が減りやすくなります。

3. 道具に頼ることをためらわない

授乳クッション、抱っこひも、スリング。こうした道具は「楽をするため」ではなく、体を守るための道具です。授乳のときにクッションで赤ちゃんの高さを作っておくと、腕と手首で支え続ける時間そのものを減らせます。

ご自宅でできるセルフケア

① 痛む動きを「知って、避ける」

完全に休ませることは難しくても、どの動きで痛むのかを把握しておくと、その動きだけを避けやすくなります。ひねる・つまむ・親指に力を入れる。この3つは特に負担がかかりやすい動きです。ペットボトルのふたを家族に開けてもらう、それだけでも手首の休息時間になります。

② 温めるか、冷やすか

一般的には、ズキズキする痛みや腫れ・熱っぽさがあるときはまず冷やし、落ち着いてきてこわばりが気になる段階では温めると考えられています。ただしこの見きわめは難しく、状態によって変わります。判断に迷うときは、自己流で続けず医療機関でご相談ください。

③ 前腕をやさしくゆるめる

手首だけでなく、ひじから手首までの筋肉がこわばっていることもあります。ひじを伸ばして手のひらを下に向け、反対の手で手の甲側をゆっくり手前に倒す。10〜15秒、気持ちよく感じる範囲で伸ばします。痛みが出るところまでは伸ばさず、その手前で止めてください。

④ サポーターは「使う場面を決めて」

親指ごと固定するタイプのサポーターは、抱っこのときの負担をやわらげてくれることが期待できます。ただし一日中つけっぱなしにすると、まわりの筋力が落ちやすくなるとも言われています。抱っこや家事の時間だけ使い、休んでいるときは外すという使い方がおすすめです。

※ ここでご紹介したセルフケアは、あくまで一般的な目安です。回復には個人差があり、症状を診断するものでも、医療行為に代わるものでもありません。ストレッチは痛みが出る手前で止め、痛みが強くなるようであればすぐに中止してください。手のしびれをともなう場合や、2週間以上変化がない場合は、整形外科などの医療機関にご相談ください。

当院でできること

手首の痛みは手首だけの問題とは限りません。抱っこの姿勢が続くことで、肩が前に入り、背中が丸くなり、その分だけ腕や手首に負担が集まっている——そうした流れになっていることも少なくありません。

当院では、初回にカウンセリングと姿勢分析で今の姿勢の傾向をご一緒に確認したうえで、肩甲骨まわりや背中の動きを含めて、体全体のバランスから整えていきます。ボキボキしない、やさしい調整方法です。あわせて、日々の抱っこの仕方やご自宅でできるケアもお伝えしています。

産後の体は、骨盤まわりも含めて大きく変化しています。手首だけでなく腰や肩のつらさも気になる方は、「産後の骨盤矯正はいつから始める?時期の目安とセルフケア」もあわせてご覧ください。

まとめ

産後の手首の痛みについて、要点を整理します。

  • 産後はホルモンの変化と抱っこの負担が重なり、手首に負担がたまりやすい時期
  • 親指側の痛みは「ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)」がかかわっていることがあると言われている
  • 抱っこは前腕で支え、親指を大きく開かない。道具に頼ることをためらわない
  • 痛む動きを避ける、サポーターは場面を決めて使う、前腕はやさしくゆるめる
  • 強い痛み・腫れ・しびれ、2週間以上変化がないときは、まず医療機関に相談を

「抱っこできる時期は短いのだから、これくらいがまんしよう」。そうおっしゃる方に、これまで何度もお会いしてきました。けれど、痛みをかかえたままの抱っこは、体にも気持ちにも負担が重なっていきます。がまんの前に、できることがあります。手首のこと、体全体のこと、ご一緒に考えていきましょう。